【速報②】トランプ「イラン攻撃」に言及せず、全面戦争は回避へ

イランによる報復攻撃に関する新たな情報が入ってきており、イラン側の意図が少しずつ明らかになってきた。

イラクの治安機関によれば、米軍が駐留する2つのイラク軍基地には合計22発の弾道ミサイルが撃ち込まれそのうち2発が不発だったが、イラク軍にも米軍にも被害は発生していない。

しかもイラク軍参謀長のスポークスマンは、攻撃の直前にイランから攻撃予告の連絡があり、基地内の米軍区域に限定した攻撃になることが伝えられていたというのである。

攻撃のどれくらい直前にこの通知がなされたのか、米CNNが報じたところによれば、この情報は事前に米軍側にも共有されていたため、米軍側に被害が発生しなかったという。

イランは、イラク軍や米軍側に人的被害が出ないように配慮した形で攻撃を行っていたことになる。つまり、ソレイマーニー司令官の殺害に対する報復攻撃をする必要があったものの、米兵に対する被害を抑えることで、米国からの全面的な報復攻撃を避けることを狙った、と考えるのが妥当であろう。

今回のイランの攻撃にはいくつかの特徴があるが、筆者がもっとも不思議に感じた点は、イラン政府が、イランからこの攻撃を行ったことを正式に発表したことであった。昨年5月以降、様々な攻撃が石油タンカーや米軍基地やサウジアラビアの石油施設に対して行われたが、イランが自らの攻撃であることを認めたのは、昨年6月にイランの領空を侵犯した米軍の無人機を撃墜したときだけである。これはイランの領空侵犯、主権侵害という国際法的にも正当な主張が可能な事案だった。

しかし、それ以外の攻撃は、イランの関与が強く疑われるものの、イランは自分たちの犯行であることを全否定している。代理勢力を使うことで関与を否定し、証拠を掴ませないことで、敵に攻撃の口実を与えないのがイランの手法であり、このやり方を続けることで、米国にイラン攻撃の決定的な口実を与えることなく、米国やその同盟国に圧力を与え続けることができたし、それこそがイランの作戦だった。

しかし今回はイランが自ら弾道ミサイルを撃ったと宣言したことから、米国との全面戦争覚悟で報復攻撃に乗り出したのかと考えたが、実はイランはここでも米国との全面戦争を避けるために注意深く慎重な攻撃を行っていたことになる。

もう一つの特徴は、短距離弾道ミサイルを使ったことである。本当に被害を与えようとすれば、米軍の防空システムでの迎撃が難しい、無人機や巡航ミサイルを使った方がよいはずである。無人機と巡航ミサイルの複合攻撃で昨年9月にサウジアラビアの石油施設を正確に攻撃したあの技を使えば、より確実に米軍兵舎を破壊することができたはずである。しかしそれをしなかった。

つまりイランは、米軍の防空能力を理解したうえで、あえて彼らが迎撃しやすい弾道ミサイルを使った可能性があるのだ。これも米軍側の被害を避けようとするイランの配慮だった可能性がある。

イランのメディアは今回の報復攻撃により米兵に80名以上の死者が出たと報じた。国内的には米側に大きな被害を出した、報復攻撃は成功だったというプロパガンダを行ったことになる。

そしてザリフ外相は、今回の攻撃が国連憲章第51条に基づく自衛権の行使であり、「我々はエスカレーションや戦争を望んでいない」と述べ、イラン軍の参謀総長も「今回の攻撃は警告であり、米国が新たな攻撃を仕掛けてきた場合、より強力で破滅的で広範な攻撃を行う」と述べて、米国がイランへの新たな攻撃をしない限り、これ以上の攻撃はしないことを示唆した。

そして、イランの最高指導者ハメネイ師も8日の演説で、「米国に平手打ちを食らわせた」と述べて作戦の成功を称えつつ、「このような軍事行動だけでは不十分であり、重要なことはこの地域における米軍の駐留を終わらせることだ」と述べ、長期的な米国の影響力の排除のために抵抗を続けると述べた。

今回イランは、ソレイマーニー司令官の殺害という事態を受けて、国家としての報復を国民にも世界にも宣言し、「自衛権の行使」という大義名分でイラクの米軍に対して攻撃を行った。そしてこの作戦が成功裏に終了した、と政府として宣言した以上、イランからの攻撃をこれ以上行うことはない、と思われる。

ちょうど本稿執筆中に、「イランが対米報復攻撃の直後に、米政府に対して、米国が反撃しなければイランは攻撃を継続しないとの書簡を出していた」と共同通信が報じた。やはりイランは何重にも慎重に米国からの攻撃を避けるための措置を講じていたことになる。

そして、こうしたイランのメッセージをトランプ政権が受けとめて、イランへの攻撃をしないと発表するかどうかに注目が集まった。

8日午前、トランプ大統領はホワイトハウスで声明を発表。米軍に被害が出なかったことを正式に報告した。相変わらずイランへのいつもの批判を繰り返し、イランの核武装は許さないとの決意を示したものの、イランへの軍事攻撃には触れなかった。

トランプ政権は、イランの意図を理解し、イランとの全面的な戦争を避けるために一定程度緊張を緩和させることに同意したことになる。一先ず、全面的な戦争に発展する危機的な状況はこれで避けられたと思われる。

しかし、これで安心することはできない。イランが米国による経済制裁で追い込まれている状況に変化はなく、経済制裁の解除がイランの目下最大の目標であるのに対し、トランプ大統領は新たにイランに経済制裁を課し、最大限の圧力を続けることも強調したからである。

トランプ大統領は、破滅的な戦争を回避することには興味はあっても、イランの制裁を緩和したり、核合意への復帰には一切関心を示していないので、イランが再び危機を煽る作戦に戻る可能性はある。

その際にはまた、自分たちの関与を否定できる代理勢力を使った攻撃に戻るだけである。実際、イラン国家としての報復攻撃は終わっても、イラクのシーア派民兵組織やレバノンのヒズボラも、報復を宣言したままで攻撃はなされていない。ソレイマーニー司令官だけでなく、こうした関連組織のメンバーたちも殺害されているため、彼らが米国への報復をテロという形で行う可能性は引き続き残されている。

イランの核開発も加速している。状況は、全面戦争の危機が回避されただけで、基本的な対立構図に変化はない。危機の最大値が10だとすれば、今回9近くまで上がったものが5~6くらいまで下がったというイメージだ。つまり、まだ緊張状態は続いている。

全面的な軍事衝突の危機は一先ず回避されたものの、また、危機が再燃する可能性は十分にあり、今年の夏までこうした危機事態が繰り返される可能性もある。

引き続き、注意深く状況をモニターしていく必要がある。