中国仲介のサウジ・イラン国交正常化発表以降、中東秩序再編の動きが加速しており、米国とイスラエルに不利な戦略環境が形成されようとしている。
4月12日、サウジアラビアのイラン大使館が7年ぶりにその門を再開させたことが大きく報じられた。ロイター通信は、イラン大使館の敷地の重い門がリヤドで開かれ、その敷地を点検するイラン政府のチームが入り、白いトラックが門に到着する様子を伝えた 。
イラン政府は17日、サウジアラビアのサルマン国王をイランに招待したことを発表した。これは、長年の地域のライバルである両国の関係が急速に改善していることの表れである 。
サウジ・イランの国交回復に続き、サウジとシリアの関係正常化も急速に前進している。4月12日、シリアのメクダド外相がサウジアラビア西部ジッダを訪れてファイサル外相と会談。シリアが2011年に内戦に陥って以降、シリア外相のサウジへの公式訪問は初めて。両外相は共同声明で、2国間の航空便や領事業務の再開手続きを始めると表明 。
また12日には、チュニジアもシリアと大使館機能などを再開することで合意し、両国の外交関係が正常化されることが明らかになった 。
14日には、湾岸協力会議(GCC)とイラク、ヨルダン、エジプトの9カ国が、シリアのアラブ連盟への復帰などを巡り、ジッダで外相会合を開催。サウジ外務省は協議後に声明を発表したが、シリアの復帰に関して合意はなかった。カタールなど一部の国々が慎重な姿勢を崩していないためである 。
サウジは復帰を仲介し、5月19日に首都リヤドで開催予定のアラブ連盟首脳会議にシリアのアサド大統領を招待する方針と伝えられている。シリア反体制派の指導者たちを匿っているカタールとそれまでに何らかの調整ができるかが今後の注目点である。
アラブ諸国の間では、アサド政権との関係修復は避けられないとの見方がすでに2018年頃からあり、アラブ首長国連邦(UAE)は同年いち早くシリアとの外交関係を再確立した。しかし、当時はまだ米国の圧力が強く、他のアラブ諸国がUAEに追随するのを防いでいた。
米国は2019年にシリア政府に追加制裁を科す法案を可決してアラブ諸国を牽制したが、もはやそうした米国の作り出す障壁は、サウジをはじめとするアラブ諸国がシリアとの関係改善を進める障害として機能しなくなったと言える 。
サウジアラビアが、パレスチナの過激派ハマスとさえ関係改善の動きをみせていることは、米国の影響力低下をさらに裏付けることになった。
16日、サウジアラビアの高官はパレスチナの過激派・政治団体ハマスの指導者と会談し、2007年以来冷え込んでいる外交関係の更新について協議していることが、米ウォールストリート・ジャーナルに報じられた 。
イランの支援を受け、米国がテロ組織指定するハマスとサウジアラビアが再び関係を結ぶことは、米国とイスラエルにとっては大きな打撃になる。ハマスはサウジアラビアの指導者から王国に招待されたことを明らかにし、16日遅くにサウジアラビアのジッダに上陸する予定だとWSJは報じた。サウジ・イランの関係改善が、ハマスとサウジの関係改善を後押ししたことは言うまでもない。
ハマス幹部は、「我々は地域と世界のすべての勢力との関係を求めており、シオニストの敵以外には誰に対しても敵意はない」とツイートした。
2007年にハマスがガザ地区の支配権をファタハから奪取したことを受けて、ハマスとサウジの関係は悪化し、代わりにハマスはイランとの関係を強めた。 サウジアラビアとパレスチナの当局者によると、パレスチナ自治政府のアッバス議長も今週ジッダを訪問し、ムハンマド皇太子に会う予定だという。サウジアラビアはハマスとファタハの関係修復の仲介に乗り出している可能性がある。
最終的にパレスチナの諸派の和解を仲介することが、同皇太子の長期的な目標であるとサウジアラビア政府関係者は述べている。
サウジとイランが和解したことで、両勢力が支援して代理戦争になっていた地域の紛争や対立が大きく収束の方向に進んでおり、米国が介入することができないまま、地域大国主導の秩序形成が進んでいる。
4月17日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙は、サウジアラビアとUAEが、米国の反対にもかかわらず、値引きされたロシア製品を消費や精製といった目的で国内利用する一方、自国産出分は市場価格で輸出して利益を増やしている、とのスクープ記事を報じた 。
これまでも指摘されてきたことだが、すでにウクライナ戦争が始まってから一年以上が経過しても、このスキームは変わらずに続いているという。
UAEは特に、ウクライナ戦争の影響で世界的な輸送が容易ではなくなったロシア産エネルギー製品の一大貯蔵・取引拠点になっているという。「中東で米国の影響力が弱まっていることを示す一例」だと米紙は指摘する。
同紙によれば、昨年はロシアからUAEへの石油輸出量が3倍以上増加し、過去最高となる6000万バレルに達したという。UAEの主要な石油貯蔵拠点であるフジャイラでは、貯蔵されている軽油の10バレル当たり1バレル以上はロシア産で、サウジ産に次ぐ2番目と規模となっているとのこと。ロシアからサウジへの輸出量は、ウクライナ戦争以前は実質的にゼロだったのが、日量10万バレルに拡大、年間では3600万バレルを超える規模に達しているという。
米当局者はサウジとUAEのロシア産エネルギー製品の購入について、ロシアの収入源を減少させる西側の取り組みを損なうとして問題視していると米紙は報じているが、バイデン政権はこの2国の動きを抑えることができずにいる。
こうして中東では、地域大国主導の「米国抜き」秩序再編が進められている。